徐々に人出が増えつつあるのを眺めながら、平穏な日々を願う大阪吹田の司法書士・社会保険労務士・行政書士の伊藤貴胤です。
株主総会開催の時期ですが、コロナの影響で株主総会を開けないところも多々あると思います。
そこで株主総会や取締役会を開催しない手続きの復習です。
<みなし株主総会(書面決議・みなし決議)-会社法第319条1項>
株主(議決権を有する株主に限ります)の全員が、株主総会で決議する事項について賛成・同意しているケースにおいても、わざわざ時間を合わせて一同に会し、実際に株主総会を開催しなければならないとなると会社にとっても株主にとっても負担がとても大きくなってしまいます。
そこで、
会社法第319条第1項によると、全ての議決権のある株主が、株主総会で決議する事項について賛成・同意する旨の意思表示を書面または電磁的記録による意思表示をした場合には、株主総会の開催および決議を省略できるとされています。
この方法による株主総会決議を、みなし株主総会決議あるいは株主総会のみなし決議といったりします。
書面または電磁的記録による意思表示が必要ですので、口頭での同意ではだめで、電子メールでの同意は可能ということになります。
(株主総会の決議の省略)
「会社法第319条第1項」
取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
(株主総会の目的である事項の提案者)
株主総会の目的である事項(取締役の選任など)を、みなし株主総会決議により行う場合、当該事項を提案できる者は取締役または株主とされています。
(みなし株主総会決議の成立日)
みなし株主総会決議は、議決権のある株主全員の同意の意思表示が会社に到達した日に成立します。
5月30日に決議があったとみなしたい場合でも、5月30日までに同意書を会社まで返送してくださいと4月末頃に株主に提案書・同意書を送付すると、5月25日までに全員の同意書が揃ってしまう場合もあるかもしれません。
5月25日に全員の同意書が揃ったのであれば、株主総会の決議があったものとみなされた日は5月25日となります。
決議日を調整する場合、「なお、5月30日に決議の効力が発生します。」などのように決議に期限を設ける方法や、会社の役員等が株主の1人なのであれば、当該役員が同意書を5月30日に提出しタイミングを調整するような方法が考えられます。
(みなし株主総会議事録)
みなし株主総会決議が成立したときも、実際に株主総会を開催したときと同様に株主総会議事録を作成し保存しておかなければなりません。
みなし株主総会決議にかかる株主総会議事録の記載事項は次のとおりです。
1.株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
2.提案をした者の氏名
3.株主総会の決議があったものとみなされた日
4.議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
(登記申請の添付書類として提出)
取締役の就任の登記のように、株主総会議事録をその登記申請の添付書類として提出する必要があるケースでは、みなし株主総会議事録も取締役の選任を証する書面として提出することができます。
提案書と同意書は提出する必要がありません。
なお、みなし株主総会議事録を添付書類として提出するときも、株主リストの添付は必要です。
(定時総会でも利用可能)
みなし株主総会決議は、臨時株主総会だけではなく定時株主総会においても利用することができます。
定時株主総会において報告事項がある場合は、会社法第319条第1項ではなく会社法第320条により、株主全員に当該報告があったとみなすことができます(株主総会への報告の省略)。
当該報告があったとみなされた事項も株主総会議事録に記載する必要があります。
・株主総会への報告があったものとみなされた事項の内容
・株主総会への報告があったものとみなされた日
・議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
(株主総会への報告の省略)
「会社法第320条」
取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなす。
※なお、中小企業等協同組合法には会社法319条(株主総会の決議と省略)と同様の規定がありません。書面決議のみで開催を省略する、いわゆる「みなし総会」は認められませんのでご留意ください。
○ 書面決議書のみで総会の開催を代替することは不可であるため、会議体自体は設ける必要があります。しかしながら、書面、電磁的方法又は代理人をもって議決権を行使できる旨を定款で定めている組合においては、これらを活用して開催することにより、当日会場に参集する本人出席者数を少なくすることが可能になります。
○ 理事会については、定款の「理事会の決議」の条文内に「理事が理事会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき理事(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の理事会の決議があったものとみなす。」の規定がある組合の場合、書面又は電磁的な方法で理事会の決議があったものとみなすことができます。
(今回の復習はこれが主な目的だったりします。)
<みなし取締役会(みなし決議・書面決議)-会社法第370条>
(取締役会決議があったものとみなすことができる)
取締役(当該決議事項について議決に加わることができる取締役に限ります)の全員が、取締役会で決議する事項について賛成・同意しているケースにおいても、わざわざ時間を合わせて一同に会し、実際に取締役会を開催しなければならないとなると各取締役にとっては負担が大きくなってしまいます。
そこで、
会社法第370条によると、全ての議決に加わることのできる取締役が、取締役会で決議する事項について賛成・同意する旨の意思表示を書面または電磁的記録による意思表示をした場合で、かつ監査役が異議を述べなかった場合は、取締役会の開催、決議及び報告(報告については会社法第372条)を省略できるとされています。
この方法による取締役会決議を、みなし取締役会決議あるいは取締役会のみなし決議といったりします。
(取締役会の決議の省略)
「会社法第370条」
取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。
(取締役全員の同意)
書面または電磁的記録による意思表示が必要ですので、口頭での同意ではだめで、電子メールでの同意は可能いうことになります。
電子メールの場合、メールの本文に提案内容を記載して送信し、メールの本文に同意する旨を記載して返信をしてもらう方法や、提案内用を記載した用紙のPDFを送信し、当該用紙のPDFに署名押印したもののPDFを返信してもらう方法などがあります。
テレビ会議や電話会議は、実際に開催する取締役会に該当しますので、会社法第370条のみなし取締役会決議とは別のものとなります。
(同意が必要な取締役)
みなし取締役会決議の成立には取締役全員の同意が必要とされており、これは決議の目的である事項について提案をした取締役についても同様です。ですので、提案者たる取締役の同意書も忘れずにもらっておかなくてはなりません。
当該決議の目的である事項について利害関係のある取締役は、当該事項について議決に加わることができませんのでその同意書は必要ありません。
(定款の定めが必要)
会社法第319条第1項のみなし株主総会決議と異なり、会社法第370条のみなし取締役会決議を行う場合は、当該会社の定款にその旨の記載が必要です。
(登記申請時、みなし取締役会議事録を添付するときは定款の添付も必要)
取締役会の本店移転(取締役会で本店を決定したとき)や自己株式の消却、代表取締役を選定にかかる登記申請をするときは、取締役会議事録を添付しなければなりませんが、この取締役会議事録はもちろんみなし取締役会議事録でも問題ありません。
但し、みなし取締役会決議を行うにはその旨の定款の記載が必要とされていることから、定款も併せて添付することになります。
(みなし取締役会決議に関する定款記載例)
第○条 当会社は、取締役が提案した決議事項について取締役(当該事項につき議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意したときは、当該事項を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす。但し、監査役が異議を述べたときはこの限りでない。
※業務の範囲が会計に関するものに限定されている監査役しかいない会社では、但書以降の記載は不要です。
(監査役の同意は不要だが異議を述べられたらみなし決議不成立)
監査役の同意は必要とされていませんが、監査役が異議を述べた場合は会社法第370条によるみなし取締役会決議は不成立となってしまいます。
監査役の異議を述べるタイミングは、例えば「取締役全員が同意する前に」「提案があってから1週間以内に」などの期限が定められているわけではありません。取締役全員が同意をしてみなし取締役会決議が成立したと安心した後に、監査役から異議述べられてしまう可能性もあるかもしれません。
そのため、実務上は異議がないことを証する書面へ監査役に署名(や押印)をいただくことが多いです。
なお、業務の範囲が会計に関するものに限定されている監査役は、そもそも取締役会に参加義務がありませんので、異議を述べることができません。
(取締役会への報告事項の省略)
会社法第372条1項によると、取締役及び監査役の全員に対して、取締役会に報告すべき事項を通知したときは、実際に取締役会を開催して報告することは不要となります。
なお、業務の範囲が会計に関するものに限定されている監査役に対しては当該通知をする必要はありません。
(3ヶ月に1回以上の業務執行状況の報告は省略できない)
代表取締役または代表取締役以外の取締役で当該会社の業務執行をする取締役として、取締役会決議によって選定されたものは、3ヶ月に1回以上、自身の職務の執行状況を取締役会に報告をしなければなりません(会社法第363条)。
この代表取締役の職務の執行状況の報告については、取締役会の開催を省略して報告をしたものとみなすことはできません(会社法第372条2項)。
(取締役会への報告の省略)
「会社法第372条」
1. 取締役、会計参与、監査役又は会計監査人が取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を取締役会へ報告することを要しない。
2. 前項の規定は、第363条第2項の規定による報告については、適用しない。
3項省略
(みなし取締役会議事録)
取締役会議事録は、書面または電磁的記録をもって作成しなければならないとされています。これは会社法第370条によるみなし取締役会決議についても当てはまります。
みなし取締役会議事録(決議)の記載事項
1.取締役会決議があったものとみなされた事項の内容
2.上記事項の提案をした取締役の氏名
3.取締役会の決議があったものとみなされた日
4.議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
取締役会への報告を省略した場合の記載事項
1.取締役会への報告を要しないものとされた事項の内容
2.取締役会への報告を要しないものとされた日
3.議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
(みなし取締役会議事録への押印)
実際に取締役を開催した場合の取締役会議事録には、それが書面で作成されている場合は出席取締役・出席監査役が署名または記名押印をしなければなりません(会社法第369条3項)。
業務の範囲が会計に関するものに限定されている監査役は取締役会への出席義務はありませんが、出席したときは当該監査役にも署名または記名押印義務が発生します。
さて、みなし取締役会議事録の場合は、取締役・監査役の署名または記名押印は、法律上は必要ないとされています。取締役会の実際の開催が省略されているため、取締役会への出席者がおらず、署名または記名押印の義務を負う者がいないためです。
もちろん、みなし取締役会議事録に取締役全員が署名または記名押印をしてもいいですし、代表取締役のみが会社実印を押印するケースもあります。
(代表取締役選定のみなし取締役会議事録への押印)
取締役会議事録を添付して代表取締役の変更登記をするときは、取締役会議事録に前代表取締役が会社実印での押印がない限り、みなし取締役会決議事項に同意した取締役全員が取締役会議事録に実印で押印し、かつ取締役全員の印鑑証明書を添付しなければなりません(商業登記規則第61条4項)。
みなし取締役会議事録への取締役全員の実印押印に代えて、取締役の同意書に実印押印をしたものでも登記手続き上は問題はありません。
なお、この場合監査役の実印押印及び印鑑証明書は不要とされています。